リトアニア語とミツバチの関係

インド・ヨーロッパ語族のリトアニア語

リトアニア語はインド・ヨーロッパ語族に分類される言語で、インド・ヨーロッパ語族の祖先(祖語)にあたる印欧祖語と呼ばれる言語の特徴をよく残している言語とされいます。

今回はそんなリトアニア語とキリスト教が広まる前の時代の背景が垣間見えるエピソードを紹介しているイギリスBBCトラベルの記事を解説していきます。

 

特別な扱いをされてきたミツバチ

リトアニア北西部の海岸沿いの小さな町シュヴェントイにある聖堂。"Romuva"(ロムヴァ)と呼ばれるリトアニア人"Neo Pagan"(ネオ・ペイガン/自然崇拝などを主とする異教徒)によって建設され、その敷地内の装飾の根元にはある単語が彫られていました。

"Austėja"(アウステヤ)

その下には英語で"Bees"(ミツバチ)とも書かれていました。アウステヤはリトアニア神話に登場するミツバチの女神。リトアニアの文化にはミツバチが密接に関わっています。

リトアニア語には「人間の死」と「動物の死」を意味する単語が別々にあるのですが、ミツバチの死を意味する場合は人間の死を意味する単語が用いられています。リトアニア人がミツバチを他の動物とは異なる位置付けで関わっていたことがわかります。

また、特に近い友人を"Bičiulis"(ビチュウリス)と呼んで友好の意思を示すことがありますが、これはミツバチを意味する"Bitė"(ビテ)や"Bičių"(ビチュウ)といった単語にルーツが見られます。

リトアニアではミツバチは人間と同じ仲間であるようにも感じられます。

 

キリスト教以前の信仰の対象だった?

こうしたリトアニア語とミツバチの関係に仮説が立ちました。キリスト教の広がる前に多かった木々や自然を崇拝する異教徒である古代リトアニア人ペイガンがミツバチを信仰の対象として崇拝していたのではないか?

リトアニアには広大な異教徒文化が存在します。事実、リトアニアはヨーロッパで最後まで残った異教徒国家で、ローマ帝国によってキリスト教が広まった1000年後も古代から伝わる精霊や木々の神への信仰を続けていました。この分厚い精霊信仰の歴史がリトアニアの魅力の源だとも言えます。問題なのはキリスト教が伝わる以前にリトアニア人の信仰の対象を伝える文献が少なすぎること。

雷の神"Perkūnas"(ペルクーナス)はリトアニア神話の有名な登場人物ですが、神話は想像の世界に過ぎません。そこで「リトアニア語」がその歴史の隙間を埋める手がかりになるとは言えないでしょうか?

 

リトアニア語は現存する最古の言語の一つ

リトアニア語は現存する最古のインド・ヨーロッパ語だと言われています。文法、ボキャブラリー、発音規則は何度も変わってきましたが極めてゆっくりとした時間をかけて変化してきたためその原型をとどめているのです。

そのためリトアニア語は4000年〜5000年前に話されていたただ一つの言語インド・ヨーロッパ祖語の研究に大きな役割を担っています。この言語が後に英語、アルメニア語、イタリア語、ベンガル語へと枝分かれすることになります。

"5"を表すインド・ヨーロッパ祖語"Pénke"(ペンケ)とリトアニア語の"Penki"(ペンキ)を見ればそのルーツは一目瞭然でしょう。フランスの有名な言語学者アントワーヌ・メイエは「インド・ヨーロッパ語を知りたければ、リトアニアの田舎の人々の会話を聞きなさい」とリトアニア語に言及しました。

 

同じく信仰の対象だった"ヘビ"にも特別な関係が

"Gyvatė"(ギヴァテ)はリトアニア語で「ヘビ」という意味。その語源には「命」を意味する"Gyvybė"(ギヴィべ)があると言います。"Grass snake"(ヨーロッパヤマカガシ)と呼ばれるヘビは長くリトアニアの聖なる生き物で、繁栄と幸運の象徴として信仰の対象でした。

リトアニア語のルーツに関係の深いミツバチやヘビといった生き物がかつて信仰の対象であった事実は偶然の一致でしょうか?

ミツバチの女神アウステヤが本当に崇拝されていたかはともかく、その存在ははっきりと残されています。"アウステヤ"はリトアニアの女性名トップ10の常連。リトアニアの文化と言語の進化の中で"ミツバチ"が高い敬意を払われてきた証拠だといえるでしょう。

 

2018年3月20日
イギリスBBC By ウィル・モーフッド
引用元: "Are Lithuanians obsessed with bees?"
https://www.bbc.com/travel/article/20180319-are-lithuanians-obsessed-with-bees